東京高等裁判所 昭和29年(ラ)146号 決定 1954年4月23日
抗告人 原正子
主文
本件抗告を却下する。
理由
本件抗告の要旨は、「長野地方裁判所は、昭和二十九年三月十一日家事審判法第十八条第二項の規定に基き原告原宣夫被告原正子(抗告人)間の同裁判所同年(タ)第一号離婚事件を長野家庭裁判所の家事調停に付する旨の決定をなした。しかしながら右調停事件の管轄裁判所は、家事審判規則第百二十九条により相手方である抗告人の住所地の家庭裁判所である岐阜家庭裁判所御嵩支部であるから、原決定を取り消し、本件を同支部の家事調停に付する旨の決定を求める。」というにある。
しかしながら、本件のように、受訴裁判所が家事審判法第十八条第二項により事件を家庭裁判所の調停に付する旨の決定をした場合、これに対し当事者又は利害関係人が不服を申し立てることができるかどうかについては、家事審判法家事審判規則のいずれにもこれを許す旨の規定がなく、非訟事件手続法の抗告に関する第二十条の規定もまた家事審判法第七条の規定に徴し右の場合に準用がないことが明らかであるので、これをなしえないものとなさざるをえない。もつとも受訴裁判所が家事審判法第十八条第二項による決定をなす場合、特別の事情のない限り事件を管轄家庭裁判所の調停に付するのが相当であり、本件において、もし調停の相手方である抗告人の住所がその主張のとおり肩書地にあるものとすれば、その管轄家庭裁判所は、家事審判規則第百二十九条により岐阜家庭裁判所御嵩支部であるけれども、受訴裁判所は、必ずしも事件を管轄家庭裁判所の調停に付さなければならないものでもなく、その裁量により事件を処理するに便宜な他の家庭裁判所の調停に付することもできるのであるから、この一事を以て直ちに原審が調停に付すべき家庭裁判所を誤つたということができないばかりでなく、調停に付せられた長野家庭裁判所においても、家事審判規則第四条により事宜に応じその付された事件を自ら処理し又は他の家庭裁判所に移送することもできるのであるから、相手方である抗告人が真実長野家庭裁判所において事件を処理するを困難とする事情にあるならば、同裁判所に対し実状を訴えて適当な家庭裁判所に事件を移送して貰う方法もあるべく、これがためあえて抗告人に原決定に対する抗告権を認める必要はないのである。
されば、本件抗告は不適法であつてこれを許すことができないので、主文のとおり決定した。
(裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)